●事件の概要
原告(有限会社二鶴堂)が、被告(株式会社ひよ子)の指定商品を「まんじゅう」とする鳥形をした商品の形状そのものの立体商標登録について無効審判請求したところ、特許庁が無効不成立の審決をしたことから、原告が東京高裁にその審決の取消しを求めて訴訟を提起した事件。
●裁判所の判断
(商標法3条2項該当性について)
被告は,本件立体商標は,使用されている商標の立体的形状の一部に文字商標「ひよ子」が刻印・刻字等によって付されているわけではなく,被告が使用している本件立体商標に係る立体的形状は,本件立体商標そのものである,また,販売店において,本件立体商標の合成樹脂製大型模型や「ひよ子」饅頭と形状,色彩,大きさが同じ合成樹脂模型を広告のために展示しているが,これらの模型にも「ひよ子」の文字商標が刻印・刻字等によって付されていない,菓子の包装材に「ひよ子」なる文字が記載されていたとしても,包装されているひよ子饅頭そのものには文字等は一切記載されていないため,需要者には,包装材の「ひよ子」の文字とともに,文字等の一切記載されていない立体的形状であるひよ子饅頭を見て,その饅頭が「ひよ子」饅頭であり,その立体的形状が「株式会社ひよ子」の製造販売に係る饅頭であるとの認識が生じる,と主張する。
しかし,
たとえ商品自体には文字が刻印・刻字等されていなくても,前述のとおり,実際の販売態様は,一つ一つの菓子を文字商標「ひよ子」と記載された包装紙で包装して販売しているものであり,展示品も,1セットを構成する多数の菓子のうちの1,2個の菓子のみが包装をとった状態になっているに過ぎず,需要者は,文字商標「ひよ子」に注目して出所識別を行う状態に置かれているといわざるを得ないから,販売店において,本件立体商標の合成樹脂製大型模型や「ひよ子」饅頭と形状,色彩,大きさが同じ合成樹脂模型を広告のために展示していることをもってしても,これを左右することはできない。
以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
次に被告は,広告宣伝においても,本件立体商標それ自体に「ひよ子」の文字商標が付されているわけではなく,被告は,本件立体商標そのものを各種広告に表示して宣伝活動を展開してきた,すなわち「ひよ子」の文字商標は,本件立体商標とは別の場所,別の物件に付されているに過ぎず,本件立体商標の立体的形状それ自体の一部に「ひよ子」の文字商標が付されているわけではないし,テレビCMについても,別途音声で「ひよ子」を連呼しているにすぎず,本件立体商標の立体的形状それ自体の一部に「ひよ子」の文字商標が刻印・刻字等によって付されているわけではない,と主張する。
しかし,前述のとおり,
被告の行った広告宣伝のすべてにおいて,菓子「ひよ子」の立体形状に接着して文字商標「ひよ子」が存在し,又は「ひよ子」との音声が挿入されていて,需要者が,文字商標「ひよ子」に注目して出所識別を行う状態に置かれているといわざるを得ないものであるから,被告の上記主張は採用することができない。
また被告は,広告等に文字商標「ひよ子」が記載され,かかる文字商標「ひよ子」が著名商標である(乙121の1?5)からこそ,本件立体商標の立体的形状と,その立体的形状が菓子「ひよ子」であるとする認識が需要者等に定着していき,本件立体商標の立体的形状が「ひよ子」であるとの認識,あるいは,株式会社ひよ子(被告)の製造販売に係る饅頭であるとの認識が醸成される,原告の主張によれば,本件立体商標のそばに文字商標「ひよ子」が表示されている場合は,たとえ膨大な使用実績を重ねても,本件立体商標と文字商標「ひよ子」との関係性は何ら生じないということになり,不合理である,と主張する。
しかし,文字商標「ひよ子」が著名商標であったとしても,このことは,需要者を当該文字商標の方に注目させることになるものであり,
文字が本来的に識別標識としての機能を営むことに鑑みれば,識別標識としての機能が二次的なものである立体形状について需要者が注目する度合いは極めて低いものとならざるを得ないこととなる。商号と文字商標がともに「ひよ子」として同一である被告が,
文字商標「ひよ子」を使用せざるを得ない事情にあることは理解できるものの,これを考慮に入れて検討したとしてもなお,文字商標「ひよ子」とともに商品形状を使用するという形態である限りは,膨大な使用実績を重ねても,本来的に識別標識としての機能を営まない立体形状はその識別力が低いものに止まるとみることは不合理とはいえない。
以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
以上によれば,本件立体商標は商標法3条2項に定める要件を具備するものと被告した本件審決の判断は誤りである。
本願商標