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どうやったら強い日用品特許が取れるの?

 日用品の発明に限ることではありませんが、強い特許を取るためには、発明を的確に把握するとともに、充分に実施の形態を開示する必要があります。

(1)発明を的確に把握する。

 発明を的確に把握することは、最初に行わなければならないとても大切な作業です。
 発明の把握を誤ってしまって、ボタンの掛け違いをしてしまうと、その後の調査・出願の労力と費用がすべて無駄になってしまいますし、他者の権利を侵害するおそれもあります。
 発明を的確に把握できなければ、有効な実施形態を開示することもできず、本来であれば侵害となったはずの第三者の発明を含めることができないかもしれません。

 では、最初にあなたの日用品の発明について客観的に把握してみましょう。

  ・今まで同種の日用品には、どのようなものがあり、どのような構成となっていたのでしょうか(従来技術)。また、どのような使い方をしていたのでしょうか。
  ・従来技術として認識した日用品の構成、あるいは、使い方にはどんな不具合(課題)がありましたか。
  ・あなたはその不具合(課題)を、あなたが発明した日用品によりどのように解決しましたか(手段・構成)。
  ・その結果、どのような効果が得られたのでしょうか(効果)。

 これらを明確に把握することで、あなたの発明した日用品を特許化する場合の重要ポイントがしっかり把握できることと思います。

 そして、上記のうちの手段・構成が、権利化をしたい部分になります。


 ここで、理解の容易のため、お玉(杓子)の構成を例に取りますと、以下のようになります。

 ・従来、お玉は、グリップの先端に柄を介して椀状のお玉本体を連設した構成となっており、グリップや柄の部分に係止部がなかった(従来技術)。
 ・したがって、鍋の容器本体の中にお玉を立て掛けようとしても、お玉のグリップや柄が容器本体の開口周縁部をスライドして、お玉が鍋の容器本体の中にずり落ちてしまうという問題点があった(課題)。
 ・そこで、グリップや柄の中途部に鉤状の係合部を設けて、この係合部を鍋の開口周縁部に係合することとした(課題を解決するための手段)。
 ・その結果、鍋の中へ落ち込むのを防止することができる(効果)。

 そして、「お玉のグリップや柄の中途部に鉤状の係合部を設けて、この係合部を鍋の開口周縁部に係合する」という手段・構成が、権利化をしたい部分になるわけです。

 このように従来技術、課題、課題を解決するための手段、効果を明確に把握することにより、あなたが発明した日用品についてどのように権利化を図れば良いのかを容易に把握することができます。
 

 (2)充分な実施形態を開示する。

上記のように的確に把握されたあなたの発明をより強固な特許とするためにはどのようにすればよいでしょうか。

 強い特許というのは、基本的には次の3つの要件を備えている特許だといえます。
 すなわち、
   1)侵害追求が容易である、
   2)特許性が高く、無効になりにくい、
   3)解釈上の疑義が生じにくく、隙がない、
という要件です。
 これらをバランス良く備えた特許が強い特許となります。
 それでは、それぞれの要件について検討してみましょう。

 1)侵害追求が容易である。
 侵害追求が容易であるためには、さまざまな態様(手段・構成)を包含する請求項(「特許請求の範囲」という書類に記載する、あなたが権利を要求する範囲に相当します)が記載されている必要があります。
 すなわち、製品(実施品)態様の請求項だけでは、侵害の要件の立証が容易でなく、侵害追求が困難となることもあり得ます。
 例えば、上述した鉤状の係合部をお玉に設ける構成だけを請求項に記載していたのでは、同様の鉤状の係合部をフライ返しや泡立て器に設けたものを製造し、あるいは、販売等している者について、侵害を追求できません。
したがって、これらの者にも侵害が追求できるように、調理用器具一般に対応する請求項についても記載するのが好ましいこととなります。
★鉤のみならず他の態様のストッパーを2,3実施例として挙げて欲しい・・・どんなものがあるでしょうか・・・?

 さらに「他人がこの実施形態から逃れようとしたら、どのような実施形態で実施してくることが考えられるか?」について十分に検討して、他人が実施するであろう実施形態を考えて記載しておくのが理想的です。

 また、より広い権利範囲、すなわち、技術的範囲が広く解釈できる請求項(より上位概念の請求項)が記載されていれば、侵害の様々な態様に対して、材料や他の形状などが異なる様々な侵害をより確実に追求することが可能となります。
★より広い範囲→お玉以外にフライ返しや泡立て器


 2)特許性が高く、無効になりにくい。
 特許性が高く、無効になりにくくするためには、従来技術との技術思想上の相違を可能な限り主張できるように分析し、明細書に記載しておく必要があります。
 すなわち、従来技術の構成と出願発明の構成との差異を明確にすることはもちろん、従来技術の構成と出願発明の構成との差異よってもたらされる作用・効果の差異を明確にしておく必要があります。
 この結果、進歩性の根拠を主張しやすくなり、無効原因をより回避することができます。

 3)解釈上の疑義が生じにくく、隙がない。
 さらに解釈上の疑義が生じにくく、隙がないということは、用語が明確であるとともに、技術的範囲が明細書に開示された実施形態に基づいて解釈されたとしても必要以上に限定解釈されないように充分な実施形態を開示しておくことが望まれます。

 そして、上記の要件を満たすためには、より多くの実施形態をご呈示いただくことが必要となります。これにより、より上位概念を抽出し、必要以上に限定解釈されないように充分な実施形態を開示した強い権利を生み出すことが可能な明細書を作成することができるのです。
  

日用品特許の出願に際して
 ところで、日用品の特許に限りませんが,特許は実施品について権利をとることが目的ではなく、実施品を含む技術的な思想(技術的な構成)を権利化することにあります。
 従いまして、具体的な物として可視化しつつ、その背景にある技術的思想を可視化された範囲内に権利が限定されないように様々な視点から表現していくことが重要です。
 
 このために必要な資料としては、以下のようなものが挙げられます。   (A)日用品の外観構成を説明するための資料
  (B)内部構成に特徴がある場合には日用品の内部構成を説明するための資料
  (C)組立構造に特徴がある場合には日用品の組み立て状態を説明するための資料
  (D)使用方法に特徴がある場合には、使用状態などを説明するための資料
  (E)製造方法に特徴がある場合には製造工程を説明するための資料(製造工程図など)

 以下、より詳細に説明します。

(A)日用品の外観構成を説明するための資料

 日用品の外観構成を説明するための資料としては、どのように発明を具現化したのかを明確にするために、具体的な日用品装置、システム(装置)について説明します。
 例えば、日用品の全体像を把握するための全体図。例えば、正面図、側面図、斜視図などが必要となります。
 また、外観だけでは特徴部分や構造、形状などが容易に把握できない場合には、断面図、断端面図などが必要となります。
 具体例:

(1)


  本例は、お玉の側面図の例です。

(出典 特開2009-086398号公報)




(2)


 本例は、洗濯用ネットの外観斜視図および部分拡大図の例です。
 このように全体のどの部分に特徴があるのかを、全体図(全体斜視図)と、要部の部分拡大図とを用いて特徴部分を容易に把握できるようにイメージ化します。

(出典 特許4263809号公報)





(B)日用品の内部構成を説明するための資料
 


 本例は、歯ブラシの内部構造を説明するための断面図の例です。
 外観からは想像できない内部構造に特徴がある場合には、このように断面図を用いて説明することが有効です。

(出典 特許4274486号公報)



(C)日用品の組み立て状態を説明するための資料
 


 本例は、泡立て器の組み立て状態を説明するための工程図の例です。
 このように工程順に組み立てを説明することにより、容易に発明品の組み立てにおける工夫を理解させることができます。

(出典 特許4328795号公報)




(D)使用状態などを説明するための資料



 本例は、箸補助具の使用説明図の例です。
使用状態の理解を図るために実線で箸の先端を開いた状態を示すとともに、仮想線で箸の先端を閉じた状態を示しています。
このように動きがある日用品の場合には、その動きがわかるような図面を用いることが必要です。

(出典 特許3932460号公報)




(E)製造工程を説明するための資料





 本例は、製造装置(図3)および当該製造装置における製造工程を説明するための図(図4)の一例です。
 このように製造方法に特徴がある場合などには、製造装置や製造方法を明確に理解できる図面が必要となります。

(出典 特許2936091号公報)




実際にご相談いただく際に

 上述したような資料を当初からそろえるのはなかなか難しいことと思います。弊所に実際にご相談いただく際には、こんな日用品を考えたんだけど……、というようなご説明でも結構です。可能な限りの資料を持ってきていただき、お打ち合わせの中で、必要な資料をそろえていきましょう!
 また、小さな日用品であれば、現物をお持ちいただければ、より強い特許を取得するためのご提案をさせていただくことができます。



お名前 (例)児島 敦
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