■すいか写真事件(東京高裁 H13.6.21 平成12年(ネ)750事件)

    写真被写体の選択・配置に著作物としての創作性は認められるか?
    ●事件の概要
     すいかを素材として、その配置や組み合わせに工夫を凝らした被写体を作成し、これを撮影した、新鮮な果物や野菜等の撮影を得意分野とする写真家である原告は、この写真を参考にして、これと被写体が類似する別個の写真を撮影し、その写真をカタログに掲載した被告を提訴した。1審は原告の請求を棄却したため、原告が控訴をした事件。

    ●裁判所の判断
     写真著作物において、例えば、景色、人物等、現在する物が被写体となっている場合の多くにおけるように、被写体自体に格別の独自性が認められないときは、創作的表現は、撮影や現像等における独自の工夫によってしか生じ得ないことになるから、写真著作物が類似するかどうかを検討するに当たっては、被写体に関する要素が共通するか否かはほとんどあるいは全く問題にならず、事実上、撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分が共通するか否かのみを考慮して判断することになろう。
     被写体の決定自体について、すなわち、撮影の対象物の選択、組合せ、配置等において創作的な表現がなされ、それに著作権法上の保護に値する独自性が与えられることは、十分あり得ることであり、その場合には、被写体の決定自体における、創作的な表現部分に共通するところがあるか否かをも考慮しなければならないことは、当然である。写真著作物における創作性は、最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり、これを決めるのは、被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等における工夫の双方であり、その一方ではないことは、論ずるまでもないことだからである。
     本件写真は、そこに表現されたものから明らかなとおり、屋内に撮影場所を選び、西瓜、籠、氷、青いグラデーション用紙等を組み合わせることにより、人為的に作り出された被写体であるから、被写体の決定自体に独自性を認める余地が十分認められるものである。したがって、撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分についてのみならず、被写体の決定における創造的な表現部分についても、本件写真にそのような部分が存在するか、存在するとして、そのような部分において本件写真と被控訴人写真が共通しているか否かをも検討しなければならないことになるものというべきである。
     本件写真は、作者である控訴人の思想又は感情が表れているものであるから、著作物性が認められるものであり、被控訴人写真は、本件写真に表現されたものの範囲内で、これをいわば粗雑に再製又は改変したにすぎないものというべきである。このような再製又は改変が、著作権法上、違法なものであることは明らかというべきである。

     当裁判所は、先行著作物と被写体が同一ないし類似のものである写真一般について、そのような写真を撮影するのが著作権法に違反するといっているのではない。特に、先行著作物の被写体を参考として利用しつつ、被写体を決定し、自らの創作力を発揮して新しい写真を撮影することが、著作権法に違反するといっているのではない。当裁判所がいっているのは、先行著作物において、その保護の範囲をどのようにとらえるべきかはともかく、被写体の決定自体に著作権法上の保護に値する独自性が与えられているとき、上記のような形でこれを再製又は改変することは許されないということだけである。したがって、上記のように解したからといって、写真による表現行為が著しく制約されるということに、決してなるものではない。

    原告(控訴人)写真 被告(被控訴人)写真

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