■自走式クレーン事件(東京高裁 H10.6.18裁平成9年(ネ)404号事件)

    意匠の類否
    ●事実の概要  自走式クレーンの意匠権者(原告・被控訴人)は、被告の自走式クレーンの製造販売に対し、意匠権を侵害するとして、差止め・損害賠償を請求した。原告の請求が一部認容されたため、被告が控訴した事件。

    ●裁判所の判断
     意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。
     自走式クレーンの公知意匠、自走式クレーンの用途及び使用態様からして、本件意匠(原告意匠)の基本的構成を形成する、キャビン、機器収納ボックス、ブームの各概要的な構成態様や、下部走行体と、キャビン、機器収納ボックス、ブーム相互の配設関係等が、取引者・需要者にとって、購入選択等する場合の重要な要素と考えられることからすると、本件意匠の要部は次の構成に存するものと認めるのが相当である。
    1 正面視において下部走行体の略中央の位置にあり、下部走行体の全長の二分の一弱で、背面視において右方(前方)下部が前方に突出した横長変形六角形の高い箱体状のキャビンと、高さがキャビンの略三分の一の前後に長い箱体状の機器収納ボックスとの間に、収縮・収納状態のブームがキャビンの下方側部を前下がりの状態で横切り、正面視において中央部下方の一部が機器収納ボックスに隠れるように配設された、キャビン、機器収納ボックス及びブームの構成態様及び配設関係
    2 収縮・収納状態のブームの基端部が、キャビンの側方の若干後方位置で、かつ、下部走行体の後端部上方に塔載されたエンジンボックスの前方斜め上の位置で旋回フレームの基台から突設された正面視略直角三角形状のブーム支持フレームの上端部に枢着され、機器収納ボックスとキャビンの間を前下がりの状態で横切るブームの先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わる構成態様並びにブーム支持フレーム、ブームとエンジンボックスを含む下部走行体及びキャビンとの配設関係

     イ号意匠(被告意匠)は、本件意匠(原告意匠)の要部を具備するものであって、両意匠を全体的に観察した場合、看者に共通の美感を与えるものであり、イ号意匠は本件意匠に類似するものと認められる。
     本件意匠とイ号意匠との間には右2に認定の相違点があるが、いずれも本件意匠の要部に関しない部分についてのもの、あるいは細部についてのものであって、右相違点によって、前記共通の美感を凌駕し、別異の美感をもたらすものとは認められない。

     したがって、控訴人の主張は採用することができない。

         
    本件意匠(原告意匠) イ号意匠( 被告意匠)
    正面図正面図
    背面図背面図

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