■学習机事件(大阪地裁 S46.12.22 昭和45(ワ)507号事件)

    登録意匠の利用
    ●事実の概要
     机部分のみからなる学習机の意匠権を有する原告が、机部分と書架部分からなる学習机を製造販売している被告に対し、被告意匠が被告が有する登録意匠の実施にあたるとしても、先願原告登録意匠を利用し原告意匠権を侵害するものであるとして、被告の学習机の製造販売の差止めを求めた事件。

    ●裁判所の判断
     原告登録意匠と被告意匠とを全体的に対比観察すると、原告登録意匠は単なる机の意匠であるのに対し、被告意匠は机に書架を結合して一個の物品となした学習机の意匠であつて、両者の意匠にかかる物品は同一性がなく、被告意匠は単なる机のみの意匠とは異なる審美感を惹起せしめるものと認められるから、意匠全体を比較すれば両者は非類似であるといわねばならない。

    意匠の利用とは、ある意匠がその構成要素中に他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を、その特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別しうる態様において包含し、この部分と他の構成要素との結合により全体としては他の登録意匠とは非類似の一個の意匠をなしているが、この意匠を実施すると必然的に他の登録意匠を実施する関係にある場合をいうものと解するのが相当である。意匠法第26条は登録意匠相互間の利用関係について規定するが、意匠の利用関係のみについていえば、他の登録意匠を利用する意匠はそれ自体必ずしも意匠登録を受けている意匠である必要はなく、意匠の利用関係は登録意匠と未登録意匠との間にも成立するものであり、他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用した未登録意匠の実施が、他人の当該意匠権の侵害を構成することは勿論である。

    被告意匠に係る学習机は、机部分と書架部分とを結合してなるもので、構成部品として机を包含し、しかも外観上机部分と書架部分とは截然と区別しうるものである。従つてもし被告意匠の机部分が本件登録意匠と類似すると認められる場合には、被告は原告の登録意匠と類似の意匠を現わした机を部品とする学習机の意匠を実施することに帰するので、ここに利用関係の成立が肯定されることとなる。

    被告意匠が被告の有する学習机についての登録意匠に類似する意匠であり、被告意匠の実施が右登録意匠の意匠権に基づく実施とみられることは当事者間に争いがないけれども、被告の右登録意匠は本件登録意匠より後願にかかるものであるから、被告が自己の登録意匠の意匠権に基づく実施権をもつて原告の本件登録意匠の意匠権に基づく排他権に対抗しえないことは意匠法第26条第2項の規定上明らかであり、被告の実施行為は原告の本件登録意匠の意匠権を侵害するものというべきである。

       
    原告意匠 被告意匠

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児島 特許事務所