■キンググリムゾン事件(東京高裁 H11.2.24 平成10年(ネ)673号事件)

    ロックスターの写真を出版物に無断掲載できるか?
    ●事件の概要
     著名なロックグループ「キングクリムゾン」のリーダーである原告は、「キングクリムゾン」を題号として書籍を発行しその書籍中に原告の肖像が入ったレコードのジャケット写真等を使用したエフエム東京(被告)に対し、パブリシティ権の侵害として販売差止め等と損害賠償の支払いを求めて提訴した。1審は損害賠償の支払いと差止め等を認めたので、被告が控訴した事件。

    ●裁判所の判断
     本件書籍の中心的部分を占める作品紹介の部分に掲載されているジャケット写真187枚のうち被控訴人本人の肖像写真が使用されているものはわずか3枚で、これに「キング・クリムゾン」の構成員の肖像写真を加えてみても合計5枚にすぎない。いずれの作品紹介にあってもジャケット写真の占める部分は当該紙面の4分の1未満に抑えられている上、作品概要と解説文が果たす役割の重要性も無視することができないから、ジャケット写真がその中心的な役割を果たしているということはできない。
     本件書籍に多数掲載されたジャケット写真は、それぞれのレコード等を視覚的に表示するものとして掲載され、作品概要び解説と相まって当該レコード等を読者に紹介し強く印象づける目的で使用されているのであるから、被控訴人本人や「キング・クリムゾン」の構成員の氏名や肖像写真が使用されていないものはもちろんのこと、これが使用されているもの(これらがわずかであることは前記のとおりである。)であっても、氏名や肖像のパブリシティ価値を利用することを目的とするものであるということはできない。

     本件書籍に使用された被控訴人を含む「キング・クリムゾン」の構成員の肖像写真のうちパブリシティ価値の面から問題となるのは、伝記部分の5枚と各作品紹介の扉部分4頁に掲載されている肖像写真にすぎないことになるが、その掲載枚数はわずかであり、全体としてみれば本件書籍にこれらの肖像写真が占める質的な割合は低いと認められ、これらの肖像写真は被控訴人及び「キング・クリムゾン」の紹介等の一環として掲載されたものであると考えることができるから、これをもって被控訴人の氏名や肖像のパブリシティ価値に着目しこれを利用することを目的とするものであるということはできない

     また、被控訴人は、著名人の紹介等は、その価値が当該著名人の氏名、肖像等の顧客吸引力を下回らない場合に初めて正当な表現活動として著名人の許諾が不要となる旨主張する。しかし、著名人の氏名、肖像等はもともと著名人の個人識別情報にすぎないから、著名人自身が紹介等の対象となる場合に著名人の氏名、肖像等がその個人識別情報として使用されることは当然に考えられることであり、著名人はそのような氏名、肖像等の利用についてはこれを原則的に甘受すべきものであると解される。

     判断基準の異なる氏名、肖像等の顧客吸引力と言論、出版の自由に関係する紹介等とを単純に比較衡量することは相当ではなく、パブリシティ権の侵害に当たるか否かは、他人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、右使用が専ら他人の氏名、肖像等のパブリシティ価値に着目しその利用を目的とする行為であるといえるか否かにより判断すべきものである

     なお、本件書籍の発行が営利目的であることは当事者間に争いがないが、氏名、肖像等を使用する行為は営利目的の有無を問わず発生し得るものであって、紹介等の行為の営利性とパブリシティ権の利用とは直接関連しないから、本件書籍の発行が営利行為に当たることをもって前記認定を動かし得るものではない

     以上のとおり、本件書籍は被控訴人のパブリシティ価値を利用することを目的として出版されたものということができず、被控訴人主張のパブリシティ権侵害の事実を認めることはできないから、被控訴人の本件各請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。


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